2024.04.01

散髪、顔剃り。前回と同じ若い人から「今日はこのあと何かあるんですか」とまた訊かれ、どうして話の広げ方がそれしか無いのか、Tinder初心者みたいなコミュニケーションの広げ方はいい加減きついっすよと思いながら適当に受け答えするも「ええまあ、はい、そうすね、あの、大学のガイダンスみたいな、え、大学ですか、そこです、駅の向こうの、あ、はい、や、はい、でも」と口籠る自分が馬鹿馬鹿しくなってきたので「あの、お兄さんヒップホップとか好きですか、 」と一瞬の静寂にカウンターを打ったらクリティカルヒットし見事に盛り上がって、僕が昨年オジロのライブに行ったというと彼は葛飾出身らしく、プライベートでリリックを書いているZORNに遭遇してデモテープを聴かせてもらったことがあると言った、あとHideyoshiの顔剃りもしたことあって、そのあと渋谷のバーで会って、覚えててくれたんすよ、と言って、僕はえーやば、えぐいっすねえ、とずっと感心しっぱなしだった。ライブもよく行くようで、最近はやはりKANDYTOWNの武道館であったり、BADHOPと舐達麻であったり、チーム友達♪ だったり、そういった話題にも触れつつひとしきり盛り上がっていると担当のマツバラさんがサイドパーマを当てに戻ってきて、彼はヒップホップには疎いがAK-69の散髪を何度かしたことあり、はじめに切った時は何も考えずに本人がこだわっているであろうもみあげを全て剃ってしまった、それでもその後何度かリピートしてくれたから良かった、と言っていた。なんだ、早く言ってくださいよ光栄です、よくわからんけど、と僕はテンションが上がった。

三田、13時、西校舎419。大教室は半分くらいが埋まっていただろうか、文学部のガイダンスは2,3,4年が纏めて同じ時間に行われる。だから毎年、ほんとうに毎年、やれやれ、また今年もこれか、時間の感覚もないままいつまでも堂々巡りだ、ということを今年も思った。教員の挨拶を上の空で聞きながら、前の方の席でパソコンを開いて日記でも書こうとしたが、やめて滝口悠生の『水平線』をずっと読んでいた。うちの、というかこれから入ることになるゼミの教授は、2年生の皆さん三田にようこそ、というところから福沢諭吉やらサム・アルトマンやらの話をして、華麗なスピーチだ、と思った。政治家のそれを思わせる話しぶりだった。そして最後に「三田を愛してください、ここはあなた方の第二のふるさとになります」というようなことを言って、その時手元の『水平線』は、語り手の来未が航空自衛隊の輸送機に乗って硫黄島に着き、バスに乗って島内を巡って、そこで流れた時間を横断するように展開した重奏的な物語が繋がってゆきそうなところで、毎年4月1日にこの教室に巻き戻される感覚と、各地で行われているであろう入社式や芝浦を歩くスーツ姿の若者たちと、そうか、今日から昼間にあいつらに適当なチャットを送ってもすぐに既読はつかないのか、それで、自分は、三田、今年も、ふるさと、これが、三田、今年も、でも、愛、愛なのか? というようなことが一気に去来して涙が出てきたので、隣のワカオくんにバレないように目頭を押さえた。