2024.02.21

夜になってから重い腰を上げて都内へ。都内へ、と書くと都内に住んでいないことが一瞬で判明しまう、ええそうです私は神奈川県民です。東京の街や交通網や、飲んだ酒や食べた料理の名前を並べると一気にそれっぽくなる、と誰かが書いていた。だから今日も小田急線を新宿で乗り換えて都営新宿線で初台だ、南口を出ると大雨を予期していたけれど、意外にも傘なしで耐えられそうな冷たいミストだった。フヅクエで「会話のない読書会」、最初にピスコ・サワーを頼む。ピスコ・サワーは自分で作って味見してお客さんに出したことはあるけれど、ちゃんと飲むのは初めてでこんなに美味しいカクテルがあるのか、と驚いて手に持ったグラスと何度も目を合わせてしまった。どこでも飲めるわけじゃないのがまた憎い。今日は『夜明けのすべて』の原作を読む回で、先週流し読みしたのをあらためてしっかりと読み返したけれど、どうしても映画を初めに観たときの感動というか共鳴に小説が勝らず、あれ意外に、と感じていたのがやはり変わらなかった。二杯目にキュロのジン・トニックと、小腹が空いたのでチキンカレーもお願いして、読み終えたので『八本脚の蝶』に移った。

実家の私の部屋の天井は板張りで、フローリングの床に見える。昔から、目が覚めると、天井が床だということにして目で歩き回った。フローリングの床に降り立つ。床には四角い照明器具がついていて、スイッチのチェーンが垂直に立っている。床から少し上のところに、逆さにデルヴォーの「こだま」が掛かっている。
一段上って出窓がある。カーテンをあける。窓をあける。頭上にはひさし(屋根)、窓から続くのは空、一歩踏み出そうか、迷う。

二階堂奥歯『八本脚の蝶』河出文庫 2020 p.349