2024.02.20

なんとか動けそうだったので滝口悠生に倣ってバッティング、散歩、読書の日にする。『三人の日記』を読みながら小田急線。電車だと不思議なほど集中して本が読めるけれど、それは程よく空いた午後の快速急行の、太陽を背にした眩しくない席に座れているからかもしれない。金川晋吾の名前を見て思い出した、小鳥書房文学賞の締切が2月末で応募したいと思っていた。連続した三日間の日記を4000字以内で送ればいいのだが、果たしてどの三日間を切り取ればよいのか、何人かのひとの日記を毎日読んでいて、その中で「今日のは特にヤバいな」と思う日はあるけれど、こと自分の書いたものや過ごした日や切り取った場面になるとどれも生彩を欠くように思えてきて、生彩を欠くというのはつまり「ヤバくはない」ということだ。作られた日をそのまま書いても何にも面白くない、そのくせ今日は作られた日を作ろうとすべく吉祥寺に向かう。

「まめ蔵」に入るとホナミちゃんは休憩中のようでスマホを見ながらカレーを食べていて、僕が来たからちょっと驚いた素振りをみせた。その奥でバンダナをしたワカオくんが「お~」と顔を覗かせて、ややあってから彼が慣れない様子でオーダーを取りに来た。「どうしたん」と訊かれて、別にどうしたわけでもなかったけれど火曜日だしふたりが居るだろうと思ってカレーを食べに来ただけだったので「うん? うん、カレー食べにきた」と言ったら「そうか~」とあっさり受け容れられた。店の棚に僕らの本が差さっているのをみとめたので、スマホで動画を見ているホナミちゃんに「え、置いてあるじゃん、こわ~」と言ったがこれは照れではない、嬉しいとかありがたいじゃなくて怖い、自信を持って作ったと言えないからかもしれない、この前は甲府から帰る特急の中で恋人と本の話になって、読みたいと言われたので僕は自分で作って刷ったくせに手元に一冊も残っていないから恋人にはデータで送って、初めて自分が書いたやつを読ませた、これも怖い。次は怖くないものを書きたいし作りたい。野菜のカレーに辣韭と福神漬けをトッピングした。

そのあと「防波堤」に寄ったら欲しい本しかなくて結局リュックいっぱいに買い漁り、その中でも二階堂奥歯の『八本脚の蝶』があったのが良かった。最近ずっと探していた。夜になるまで駅のスタバで読みふけり中央線で新宿へ。エリザベス宮地が撮った東出昌大のドキュメンタリーを観た。MOROHAが劇伴をやっているのでかなり楽しみだったが、どのシーンでも東出にリンクしすぎていてウケた。スキャンダルのシーンから「命の不始末」へ、山奥で子供とじゃれ合うシーンでは「tomorrow」、どのツラ下げてどこへ向かうの? 結果的には嘘つきじゃねえの? あまりにもその通りだ。極端な矛盾を孕んだ人間というと『ノルウェイの森』の永沢を思い浮かべずにはいられないし、俳優という意味では『ダンス・ダンス・ダンス』の五反田くんのようでもあり、その文脈に置くと東出もかなり格好よく見えた。憧れているわけではない。それで、エンドロールの「五文銭」で一気にやられた。テアトル新宿は音が特によかった。