2024.02.17

YouTubeでプロ野球のキャンプ動画を見漁り、パ・リーグTVのダイジェストを遡ったり、巨人の亀井が連続敬遠の後にサヨナラ満塁打を決める動画で泣いてみたりもして、それでも眠れずに結局入眠したのは5時過ぎだった。待ち合わせに一時間遅れ。恋人は厚手のダウンジャケットにジーンズという装いで、「山の方へ行こう」と僕が夜中にLINEしたのを山登りだと思っていたらしい。それに反して僕はチェスターコートに革靴にニット帽を被り、どこかで『夜明けのすべて』の山添くんのイメージがあったかもしれない、駅の券売機で特急券を買って甲府へ。車中、恋人がバレンタインとして作ってくれたクッキーを食べた。ボックス席を作ってビールを飲んでいるおじさん集団は、みな勝沼温泉で降りて行って愉快だ。

駅前のホテルで電動自転車を借りる。年季の入ったビジネスホテルは足場が組まれ修繕工事がなされていて、フロントの女性が「ペンキの臭いが気になるでしょう、ごめんなさいね、私たちはずっとここにいるからもう慣れちゃって」と申し訳なさそうに言った。適当に美術館のほうまで行ってみるかということになり、ほら文学館もあるって、と恋人がiPhoneを見せてきたので、僕は「いいよいいよ、面白くないよ、そんなところ行ってもしょうがない」と戯れて言った。結局美術館にすら行かず、住宅街を抜けて大きな河原に出て、竜王駅を経て信玄堤まで自転車を漕いだ。きらきらと午後の陽が当たる甲府の住宅街を縫うように走ると、やはり山添くんのことが思い起こされて見える景色が16ミリフィルムの粗さになっていき、その眼は空き地の梅の花や、川を行く鴨の行列の、首筋の鮮やかなツートン・カラーや、小さな川を離陸する白鷺を捉えていた。一時間かけて辿り着いたロードサイドのほうとう屋さんで、恋人は美味しそうに海老天丼を食べていた。