このまえ代々木上原の古本屋で買った雑誌がなかなか良くて読んでいるのだけれど、巻末の『ノルウェイの森』論があまりにもメタファーだらけで何が言いたいのかさっぱりわからず、ギャグのようで面白い。
村上春樹は瞬間を注釈する。語られているのは人間ではなく「関係」であり、より正確にいうと、関係の影、あるいは輪郭である。その影のなかで、あらかじめ失われた恋人たちをパラフレーズしてみせた。長篇として増殖した分だけ、この「森」は木の葉をふんだんに散らせ、夜の闇をあふれさせた。そして森の虫たちのように、誰もが死んだ真似をする。つかまえるとすぐ死んだ真似。死の擬態。
池内紀「あらかじめ失われた恋人たち 『ノルウェイの森』論」
せんじつめると、これは喜劇的なラブ・ロマンスなのだ。パトスなしに関係をながめる。一つのゲームを見るのもまた一つのゲームである。
――『村上春樹ブック』(「文學界」1981年4月) , p193
つかまえるとすぐ死んだ真似。死の擬態。