2024.09.08

 いつもはふたつ隣のビルにあるガールズバーのキャストが数人、多いときは6、7人ほど道に出て客引きをしていて、客引きとはいっても独りで歩いている男性の通行人を選んで「こんばんわー」と言ったり言わなかったりしているだけで、内輪で盛り上がっていることもあれば並んで突っ立ってスマホを見ているときもあるので、たぶん店で客を相手にするより道に立っている時間の方が長いんだろうなと勝手に思っている。それで、夜な夜なずっと立っているものだから、店で寝泊まりしている僕はなんだか夜じゅう彼女たちに守られているような、別に恐ろしいことが起きる予感があるわけではないが、すぐそこに活動している人間がいるという安心感、何かあっても大丈夫だろう、誰かが居るうちは何も起こらないだろう、という心理的な庇護のうちにあった。いつも僕はジムにシャワーを浴びに行くその往復で彼女たちの前を通る。ランニングシャツに短パンだから僕はガールズバーの客となりうる存在ではないのだけれど、終電過ぎの夜中に商店街を独りで歩く人も珍しいので、客というより近所の人に接する感じで、控えめに「こんばんわー」と声をかけられ、暗いビルの2階に消えてゆくあいつは何者なんだろうという目線を遣られる。でも今夜は日曜だからか道には誰も立っていなくて、それがなんだか寂しかった。