2024.06.30

 「――いいのよべつに。わたしも含めて、みんな好きにやれば。でもね、普通に話をしていていきなりそういうのを押しつけられるのはたまらないわよ。気分悪くなるもの。でもあの人たちは自分たちのことを『気づいた側』の人間だって自負していて、それが唯一のアイデンティティだから、それを黙ってられないのよ。声高にアピールして、自分たちが幸せだってことを知ってもらわなきゃいけないのよ。そしてその極意みたいなものを惜しげもなくみんなにシェアできるわたしって大きいよね、うっとり、みたいな話なわけよ。まあとにかく、単に優位にたってたいってことでしょ。安っぽい精神的セレブ病みたいなもんね」

川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』講談社文庫、2014、p.49