夜勤明け。3つも4つもセーフティネットを厳重にかけたアラームを一度も鳴らすことなく4時57分に目が覚めた。今日も朝から電車がたらたらたらたらたらたら走っていて間に合うはずの電車に乗ったのに4,5分の遅れをゆるやかに生み出し続ける京浜東北線大宮行きにキレそうになるかといえばそこまででもなく、やはり昨日の体力の無さと憤りは夏バテだったのかもしれないと思った。
今日のポッドキャストは保坂和志について語る回だ。ワカオくんに『プレーンソング』と保坂和志でやろう、と嬉々として言われていたので、僕も夕方の収録に間に合うように授業中も読み直していた。
五月の晴れた日というのは本当に空が青くてゆっくり吹いてくる風が暑さの手前のところで気候を一番いい感じにしていてくれて、心もからだの皮膚も毛穴のひとつひとつもみんなひらかれた気持ちになってくる。そんな日にのんびりと歩いているのだけで楽しいのに、行き先が遊園地ということになるとからだ全体がむずむずしてくるようだった。
保坂和志『プレーンソング』中公文庫、2000、p.82
ぼくは歩きながらアキラに、写真に撮られるよう子はそれを意識したりあるいはアキラの方から何かよう子に注文をつけたりしているのか訊いてみた。
ビデオは写真と違ってシャッターを切れば終わりというのではなくて、ずうっと周りつづける。四人いて三人が勝手に笑ったり笑われたり、しゃべったり猫のことを考えたりしている中で、一人だけ表情の変化の少ないことをしているのは確かに変だが、それだけではなくて、見ているとゴンタのカメラは焦点が変なのだ。それでぼくはゴンタにそれをしゃべった。
同前、pp.159-160
「誰かが動作してるじゃない。おれが笑ったりさあ、今みたいによう子が猫の餌いじったりさあ。そういうのと、ゴンタのカメラって、対応してないんだよね。
ふつう誰かが動作してればそれを撮りたくなるもんだけど、そうじゃないんだよ。ゴンタのカメラはなんかふわふわ動いてるんだよね」
と、ゴンタのカメラにつられたわけでもないだろうが、いつもよりどこか意識的に三人に均等に目を動かしてしゃべり、そうするとゴンタが、相変わらずビデオを回しながら
「これって、けっこう訓練がいるんです。
こうやってビデオ取ってると、ぼくはビデオのフレームでまわりを見ちゃうわけでしょ。だから、油断するっていうか、油断はちょっと大げさだけど、とにかく、つい、しゃべってる人とか一番動いてる人にカメラがいっちゃって。
でも、そういうのって、どっか変でしょ」
と言って、少し間をおきながらつづきを考えているらしかったが、そうしながらもやっぱりカメラの視線が一定していないのか、言われてみれば訓練の成果のようにも見えてきた。