もともと寝覚めは良くないほうだが薬を始めてからさらに起きられなくなり、6時ごろに目が覚めてもスマホで時間を確認するのがやっとのことで一瞬にして深い眠りに引き戻される。昼頃、玄関のほうから人の喋り声が聞こえたのでようやく目が覚め、僕宛の荷物が届いたことが知れて重い身体を起こすと、果たしてそれは岩波の『荷風全集』全28巻であった。タマムラくんから、お爺さんの遺品を譲ってもらったのだ。タマムラくんは北海道の出身で、彼曰く、亡くなったお爺さんはたいそう勤勉な文化人だったそうだ。白地に「ゆうパック」と書かれた大きな段ボール箱ふたつが梱包用の紐で縦にしっかりと縛られている。はさみで紐を切り、貼られたガムテープの中心を軽くなぞるように刃を入れて箱を開けると、丸めたクラフト紙と緩衝材で厳重に包まれた『荷風全集』と、六花亭のカステラが入っていた。