2024.05.11

 初台。働き終え、窓際の席でまかないのカレーを食べながら、これを食べ終えたらようやく「夕食後」だと思った。昼間に診てもらった医者は気のよさそうな白髪の爺さんで、口にする言葉のひとつひとつは何かの大仰な演技のようで僕は話が通じている気がしなかったが、それでも薬を使ってみようか、という話になったのでそれに従うことにした。気休めではなさそうな真っ当な量だった。これを飲めば楽になれる、それが「夕食後」で、そんな15mgの錠剤で何かが変わるほど僕がケミカルな存在だったらそれはそれで面白い、やってやろうじゃない、と思っていたら果たしてそれが効いた。渋谷から東横線に揺られている途中、くらっとする間もなく眠気が一気にやって来て、ロングシートの端の透明な仕切りに押し付けられるように眠りこき、辛うじて降りる駅で気づいてホームに降り立ったものの、一歩一歩が重くふらふらでそれは酔っ払いの千鳥足とも違う、一秒一秒の時間が引き伸ばされるような感覚と同期して自分の動きもスローモーションになってゆき、乗り換えの電車を待つ時間は10分くらいだったろうか、それすらも耐えがたく、しかしホームのベンチに座ったら混んでいる電車では座れない、それはもっと辛いだろうと思って、ときおりホームドアに寄りかかりながらなんとか終電を待った。その後も切れ切れにしか記憶がないが、駅前のタクシーにだいぶ列ができている映像だけは覚えている、どうにか歩いて家に辿り着いたらしく、そのまま部屋で倒れ込んだ。「入眠前に」とデエビゴも処方されていたが、今日は飲むまでもなかった。