2024.04.05

隣の席は原くんで、僕らは高校3年生で数学の授業を受けていた。町田先生が黒板に書いた何らかの公式を、僕は緑色のボールペンで、大きく、丁寧に、ひとつひとつの記号が間違っていないか何度も板書とノートを見比べながら、書き写しているところだった。すると隣から原くんが首を伸ばしてきて、いつもはそんなこと言わないはずなのに、「やーそれさ、そんな頑張って写しても意味わかったうえで使えないとほんとに意味ないよ」と言ってきたので僕は頭に来て、原くんの机を思い切り押し倒したので3年1組の教室には大きな音がどーんがっしゃーんと響いてペンやら教科書やらが散らばって皆がこちらを振り返ったけれど「あ、や、なんでもないです! ほんとに!」と照れ笑いをしたらそれで無かったことになった。明け方、そういう夢を見ていた。

原くんはこの前『国境の南、太陽の西』のことをコラムに書いていた。本棚に埋もれているのを見つけてやはり高校時代を思い出したらしい。僕のことも書いてあるかな、と期待して読んだけれど全く書いてなくって、でもきっと彼は僕のことも思い出しながらそれを書いていたはずで、そう思うと余計に心細くなった。4月から正式に入社したからだろう、クレジットされていた名前が原くんの本名ではなく、イニシャルに変わっていた。