2024.02.28

石井が駒込のワンルームを引き払って実家に戻る。白山駅前のファミマでチキンを買って、ガードレールに腰掛け食べていると向こうから石井がやって来て、少し会わないうちに彼はだいぶ髪が伸びていてそれを真ん中で分けていた。いや~ほんと助かるわ今日はよろしく、と言われレンタカーを一緒に借りに行く。二人とも免許証を登録したものの、石井はできることなら絶対に運転したくなさそうな様子で、逆に僕が「お前本当にいいの? ここから家までちょっとだけ乗る?」とか変に気を遣いつつ、旅先でも運転することのないダイハツの軽バンにテンションを上げていた。軽トラや軽バンはギア比が貨物用に調整されているらしく、660ccのエンジンを高回転までぶん回せて楽しい。石井の家に行くとベッドや椅子は解体されていたものの、酒の瓶やらクッションやら何やらがフローリングに散らばっていて、お前本当にこの状態から引っ越すの、だる~と言いながら軽バンに荷物を詰めていく。部活でレースに行くときは、2トントラックにマシンやらパレットやら工具箱やらを上手く配置して積み込むのが恒例になっていたので、その要領で軽バンに石井のワンルームの中身、冷蔵庫と洗濯機以外を押し込んで、暑くなってきたのでパーカーを脱いでシャツ一枚になったら冷たい風が心地良かった。おま、ガムテープすらないのに引っ越しするのウケる、流石に欲しいから買ってくるわとファミマに行ったら500円してさらにウケ、結局2時間くらいかかってようやく出発した。ゆずの「虹」のMVの、家がそっくりそのまま運ばれていく映像を思い出した。

視点が緩やかに横移動してゆく。分岐する川、差し込む光。ビルの間を縫うように首都高の高架が巡らされ、その中を脈々と車が走っている。やがてそのうちの一台、白い軽バンにカメラはズームしてゆき、カセット・テープを流して仕事場に向かう役所広司の顔が映し出される。だから僕はこの間観た『PERFECT DAYS』と同じだなと思って白い軽バンで首都高を縫うように走った。永田町、信濃町、代々木、初台に出て中央道を下り、16号を経て石井の実家へ。見事な連携で荷物を下ろして石井のお母さんに挨拶し、すぐに来た道を戻って駒込に戻ったら18時近くなっていた。美味いもん食おうぜ、と石井が言うので彼が少し前までバイトしていた鮨屋に入ってコースを奢ってもらい、大将に「もうここを引き払って実家に戻るんです」と話すのを隣でしみじみと聞いていた。

飲み会に行くという石井と駅前で別れて、鮨だけでは足りなかったので駅前のうどん屋に入ると、店主のおじさんがコップに水を入れてカウンター越しに渡してくれた。「うん、うん、そこ座ってね、茹でるからちょっと待っててね」と優しく言われ、そのうえ出てきたうどんには注文したはずのない春菊の天ぷらが乗っていて、僕が一瞬戸惑った表情をすると、「うんうん、いいのいいの、たべてね」とにこにこで言われたので泣きそうになった。それで食べ終えてちょっと夜道を歩き、道路の向かいに見つけた本屋に入って一冊買って、路地を入ったところに見つけたジャズ喫茶で閉店まで読み耽った。