モニターを設置した勢いでデスク用のキーボードも買った。持ち運び用に軽いのを選んだ時と同じように、時間をかけて店頭の展示機で打ち心地を試して、どれも違う、どれも違う……と呟きながら頭を抱えて量販店を歩きまわってもこれだ! というものが全く見つからず、結局は予算に合わせて妥協しつつ決めるしかなかった。ロジクールのK650というフルサイズ。ものを書く人がどんなキーボードを使っているのか調べると、平野啓一郎を筆頭に多くの人がRealforceというメーカーのものを愛用しているようで、やはり快適さを求めると3万円、といった世界なのだろう。
連日ガジェットを買っているのも、軽い躁に振れているせいかもしれない。酒も飲みたくない。素面に慣れた現在の平坦でクリアな思考と、飲んだときの高揚感や愉快な気持ちを天秤にかけても、圧倒的に素面のほうを保っていたい。だから飲まない。本当に要らない。眠くならないので夜中に部屋で本だって読める。
創作をやり続けるにはまわりの注目より先にいる必要がある。自分の能力に振り回されないのが大事だ。褒められてうれしくても、批判されて悔しくても、それをつくったのはまえの自分。いまの自分は関係あっても全部を引き受けて感情を動かしすぎないほうがいい。それより次をつくる。どんどん生成変化して先にいってしまえばいい。感情の揺れは疲れる。
岸波龍『本屋になる前に』機械書房 2023 p.92